こんにちは。税理士の佐藤です。
前回のコラムに続き、また数十年先のお話をします。

今回のテーマは「引退時にはM&Aという選択肢もある」。
M&Aとは、「企業の合併や買収」を指し、2つ以上の会社が合併して1つになったり、ある会社が別の会社を買収したりすることです。
つまり、ご自身が引退するときに、その医院を誰かに売るという選択肢もあるよ、というお話になります。
その他の選択肢も含めてご紹介していきますので、是非ご覧ください。

写真の見た目年齢が操作できるアプリで、おじいちゃんになってみました

引退時の選択肢

前回のコラムで退職金の話をしましたが、さて、先生が引退されるとき、医院はどうなるのでしょうか…?
選択肢はそう多くありません。

引退時の選択肢

  • 廃院にする
  • 獣医師となったご子息に引き継ぐ
  • スタッフの獣医師に引き継ぐ
  • 第三者に売却する

多額の設備投資を要する動物病院を、院長が引退するからと言って廃院にする手はないと思います。
機械等の運搬可能な設備は売れるかもしれませんが、医院の内外装設備や看板はむしろ廃棄コストがかかります。
いや、そんなことよりも、

  • 医院についたお客様(固定客)
  • 育てたスタッフ
  • 地域に根付いたブランド

これらは決算書には載りませんが、実はとんでもない資産です。
なので、まず、「廃院する」という選択肢、これはないですね。

そして、「獣医師となったご子息に引き継ぐ」や「スタッフの獣医師に引き継ぐ」は悪くない選択肢ですが、開業後の早い段階から引退時のことを考えるとするとあまりに不確定要素がありすぎて、開業時から打てる戦略はほとんどないように思います。

そうすると結果、意外や意外「第三者に売却する」が一番現実的なラインだと分かります。

開業時からイメージしたい着地点

勤務医を卒業して、開業した。
開業前や1~2年目は、資金のことや集客のことで頭がいっぱいでしょう。
この期間を過ぎると、今度は人事問題、つまり採用や現スタッフの教育が悩みの中心になります。
そして、5年目くらいで一旦、いろいろな問題が解決しないまでも落ちついてきます。

ここまでは、皆さん、だいたい同じです。
今日お話したいのはその先のことです。

開業前の先生、開業間もない先生はいま少し目を閉じて想像してみてください。
今から5年後、先生の医院の売上は1億円に達しました。生活にもだいぶ余裕が出来ました。
スタッフも、ときどきの入退社はあるもののおおよそ安定し、先生ご自身の指導なしで、古株のスタッフの指導のもと仕事を覚えてくれるようになりました。

で、そこからどうしましょう?

  • さらなる拡大を目指し、数千万円の売上を数億円へ、さらに分院を設立してさらなる成長をし続ける
  • 現状の安定を維持するため、業界の趨勢を見ながら既存客の満足度を維持し、無理のない新規獲得を継続する

様々でしょうが、さらにその先のお話です。

「あれ?私の医院、最後はどうなるんだろう?

そのようなことを具体的に考え始めるはずです。
そのとき、前述のとおり、第三者に売り渡すことが現実的な選択肢として出てくると思います。
このタイミングから、第三者に売り渡す、つまりM&Aを意識した経営を行っても、もちろん、全然遅くないです。いや、かなり早い方でしょう。

でも、ここまでの内容をお読みになって、せっかくM&Aが選択肢として有効だと知ったのですから、開業時からこれを意識した経営をしたって良いと思います。
何を意識するのかといったら、そのままですが

『売りやすい医院にすること(=売れにくい医院にしないこと)』

です。
少々長くなりますが、次から解説しますのでお付き合いください!

売りやすい会社、売れにくい会社

動物病院さんは、だいたい皆さん法人化するので、ここまで“医院”と呼んでいたものを、ここからは“会社”と呼びます。

さて、では『売りやすい会社』『売れにくい会社』とは、一体どんなものでしょうか。

弊社は、M&A仲介業者さんとは、大手、中小企業専門、事業特化型と複数お付き合いしていますが、共通して彼らが話してくれたことをまとめます。
細かい財務分析による数値面での特徴は、ここでは触れません。

『売りやすい会社』

  • ストックビジネスである
    (継続して収益を得られる業種のこと。分かり易いのはサブスク)
  • 社内の人事体制がしっかりしている
  • ノウハウが明文化、共有され、蓄積されている
  • 経営者がいなくても儲かる仕組みが出来ている
  • 黒字企業である
  • 役員・従業員に、高いコンプライアンス意識が浸透している

『売りにくい会社』

  • 収益獲得の仕組みが属人的である
    (例:「その社長だから」お客様がついてくるような会社)
  • 業務が属人的である
    (個々人のやり方で業務がなされている)
  • 違法労働が常態化している
  • オーナー(株主)が分散している
  • 赤字企業である
  • 役員・従業員のコンプライアンス意識が希薄である

念頭に置くべきは「会社の価値の最大化」

さて、動物病院はどうでしょうか。
動物病院は、「属人的なストックビジネス」です。
つまり、売りやすい特徴と売れにくい特徴、両方もっています。
なので、その他の要素が非常に大事になってくると考えます。

  • 儲けの仕組み化
  • 黒字の原則化(私が今作った言葉です。原則黒字って意味です。10年の内9回は黒字、くらいに思ってください)
  • スタッフの高い自律性
  • 法令遵守

このあたりを意識してください。

ただし、“経営者がいなくても儲かる仕組みが出来ている”は、ずっと後になってから考えても良いように思います。
創業期・成長期は、むしろ
“◯◯先生だから、◯◯動物病院にいく”
というお客さんをたくさん作ることが大切です。

目の前の数十万円の節税に目がくらんで、将来の億単位のお金を逃さいないようにしましょう。
目の前のちょっとした損得よりも、会社の価値の最大化
まずはこれを目標にしてください。

動物病院のM&Aは、今後さらに一般的なものになる

“M&Aで会社を売却する”

一昔前までは、遠い世界のお話のようでしたが、ここ5年くらいで急激に身近で現実的な選択肢になった印象です。
私の感覚では、ご子息やスタッフへの承継より、ずっとハードルは低いと感じます。
中小企業庁も下記のように書いています。

(株)レコフデータの調べによると、M&A件数は近年増加傾向で推移しており、2021年は過去最多の4,280件となった。これはあくまでも公表されている件数であるが、M&Aについては未公表のものも一定数存在することを考慮すると、我が国におけるM&Aは更に活発化していることが推察される

2022版『中小企業白書』

また、「中小M&A推進計画」を読むと、政府もこれを推進する方針ですので、今後ますます一般的なものになっていくと思います。
私の周りでも、動物病院の事業譲渡が、ここ数年で多くなってきました。
これを読んでいる先生の身近でも、起こっているのではないでしょうか?

既存医院を購入して開業するという方法

このコラムの一番最初に、

“・医院についたお客様(固定客)
・育てたスタッフ
・地域に根付いたブランド
これらは、実はとんでもない資産です。“

と書きました。
これを読んでいる、まだ開業構想中の先生、買う側の視点で考えてみてください。

新規で設備を買い揃え、スタッフを募集し、ホームページを作成して、開業。
少しずつ認知度を上げて、徐々にカルテ数を増やしていく。

これが動物病院の独立開業でした。

でも、現在、独立開業の方法は、それだけではありません。
引退される先生が築いた既存の医院を購入して、そこのオーナー院長に就任する、というルートもあります。
その方が性に合う先生もいらっしゃるはずです。
もちろんデメリットはありますが、すでに固定客やスタッフがいる、というのはなかなかのアドバンテージです。

前回、今回は、医院を売る側の話をしましたが、買う側の視点だってあるべきです。
既存医院を購入しての新規開業をサポートしてくれるコンサルタントさんもいます。
私も懇意にしている信頼できる方がいらっしゃいますので、ご興味があればご連絡ください。
喜んでご紹介差し上げます。

医院を買う選択肢は、開業時だけではありません。
ご自分の医院が成長した暁には、他院を購入して複数医院を経営することだって可能です。
そういう方法で、ご自身の考える理念の実現や理想の動物医療を広げていく、といった戦略も、素晴らしいと思います。

まあ、『もし私がやるとしたら』で考えたら「大変そうだな~」と思っちゃいますけど(笑)。

結果的に会社を売らなかったとしても、M&Aを意識することは絶対にプラスになる

皆さんが、会社を買い、長期保有する投資家だったとして、どんな会社が欲しいですか?

持続可能な収益力があり、
財務面での安全性が高く、
労基的なリスクがない

つまり、上記【売りやすい会社、売れにくい会社】で触れたような会社が欲しいはずです。

なので、これを目指しましょう。
そして、これが本当に達成できるなら、逆説的な言い方になりますが、結果的に、別に売らなくたって構わないと思います。

このコラムの頭に挙げた別の選択肢、
・獣医師となったご子息に引き継ぐ
・スタッフの獣医師に引き継ぐ
等を選ぶとしても、会社はそのとき、大切な後継者に自信を持って継承させられる会社になっていますから。

おわりに

今回のコラムで、創業前に確認すべきこと・知っておくべきことについてのコラムは終了です。
最後は数十年後のことを見据えて、といった話になりましたが、必ずしもこれに倣わなければいけないなんてことはありません。
ただ、何も知らないよりは知っておいた方が今後の経営にずっと役立つことは間違いないので、ぜひ頭の片隅にでも置いておいていただければと思います。

もしご不明点などありましたら、ためらわずにお問い合わせください。
可能な限り丁寧にお答えさせていただきます。

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四谷監査3部 動物病院チーム
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