この記事は2023年2月に書かれたものです。
みなさまこんにちは。税理士法人YFPクレアの村上です。
このコラムでは医療法人についてご説明していきたいと思います。
皆様の今後の経営について、少しでもお役に立てれば幸いです。
前回、医療法人の種類、【財団たる医療法人】【社団たる医療法人】についてお話させていただきました。
今回は、【社団たる医療法人】は「持分の有無」によってさらに2種類に分けられますので、どんな違いがあるかを見ていきます。
- 1. 「社団たる医療法人」と「持分」
- 1.1. 持分がある医療法人とない医療法人との違い
- 1.1.1. 医療法人解散後の財産の行方が違う
- 1.1.2. 医療法人の持ち分の買い取り請求があった場合の対応が違う
- 1.1.3. 出資者が死亡した場合の相続が違う
- 2. 【持分のある医療法人】の問題点
- 2.1. 問題点1 返還義務に応じるためのキャッシュが不足しやすい
- 2.2. 問題点2 法人を相続する時の相続税が莫大
- 3. 進められる「持分あり」から「持分なし」への移行
- 3.1. 移行の手続きは定款を変更する
- 3.2. 持分なしへの移行後に発生する問題点
- 3.2.1. 通常、法人に課税されない「贈与税」が課される
- 4. 贈与税の免税特例
- 5. おわりに
「社団たる医療法人」と「持分」
「持分」とは、医療法人の財産についての権利です。
ですので、社団たる医療法人を2種類に分け、わかりやすく示すと、以下の通りになります。
- 持分のある医療法人=財産権のある医療法人
- 持分のない医療法人=財産権のない医療法人
しかし、現在(平成19年4月以降)は医療法が改正され、持ち分のある医療法人を設立することはできなくなりました。
持分がある医療法人とない医療法人との違い
では、財産権がある医療法人とない医療法人で何が違うのかというのを挙げていきたいと思います。
医療法人解散後の財産の行方が違う
医療法人が解散となった場合を考えます。そこに残っている財産は誰のものになるでしょうか。
持分のあるなしで見てみます。
- 【持分のある医療法人】 出資者に返還されます。
- 【持分のない医療法人】 財産の返還は受けることができず、すべて国に帰属します。
医療法人の持ち分の買い取り請求があった場合の対応が違う
例えば、友人のドクターと二人で半分ずつ(50:50)お金を出し合い医療法人を設立。
しかしその後、経営方針の違いによって1人が辞めることとなりました。
この場合、辞めるドクターにいくらお金を払わなければならないでしょうか。持分のあるなしそれぞれで考えます。
- 【持分のある医療法人】 財産の半分を支払う必要があります。
もともと財産の半分は辞めるドクターの財産だったので、返還を求められれば返さなければなりません。 - 【持分のない医療法人】 就業規則に従って退職金を支給します。
それ以外は、極端に言えば1円も払わなくてもよいのです。「持分=医療法人の財産権」なので、持分がなければ、権利もありません。
出資者が死亡した場合の相続が違う
出資したドクターが死亡した場合、医療法人の権利は相続人に相続させることはできるのでしょうか。
こちらも持分のあるなしで分けてみます。
- 【持分のある医療法人】 相続は可能です。また、相続人がドクターでなくても相続することができます。
ただ、相続できるということは、相続税の課税対象となってくるのです。
相続税はキャッシュで支払わなければならないため、医療法人から払い戻しを受けないと相続税を納めるのは厳しいです。 - 【持分のない医療法人】 相続は不可能です。そもそも持分がありませんので、相続も何もありません。
医療法の改正で平成19年4月を境に、医療法人でも上記のような違いが出てきています。※令和5年2月1日現在法令等によるものとなります。
【持分のある医療法人】の問題点
【持分のある医療法人】には問題点を2つ挙げることができます。
問題点1 返還義務に応じるためのキャッシュが不足しやすい
持分=財産権と置き換えて説明してきましたが、前回買い取り請求があった場合には出資割合に応じて返還義務が生じます。
しかし、医療法人はすべての財産をキャッシュで持っているわけではありません。クリニックの建物や医療機器等の設備も含まれます。
出資割合に応じて返還する場合には、キャッシュの準備が必要となります。
それが用意できないとなった時、最悪の場合は設備の売却や保険の解約等でキャッシュを用意しなければならなくなります。
問題点2 法人を相続する時の相続税が莫大
前回お話しましたように、【持分のある医療法人】は相続させることが可能ですが、その場合は多くの相続税がかかってきます。
亡くなったドクターの資産が相続税を払えるだけのキャッシュがあればいいのですが、実際には、そこまでのキャッシュの準備をしている方はほとんどいませんし、相続人も相続税を払えるだけのキャッシュがすぐには用意できません。
そうなりますと、問題点1のように、医療法人に払戻請求をすることとなり、結果として医療法人の財産が減ることとなってしまいます。
進められる「持分あり」から「持分なし」への移行
上記のような問題があるため、平成19年4月の法改正で【持分のある医療法人】の設立はできなくなりました。
とはいえ、まだまだ【持分のある医療法人】は存在します。
そこで、【持分のある医療法人】→【持分のない医療法人】へ移行することを進めています。
なぜなら、上記しましたように資金難や経営難により医療法人が無くなってしまうことを防ぐためです。
移行の手続きは定款を変更する
移行手続きは、定款変更がメインです。
現在の医療放任の定款に挙げられている、
- 「医療法人を解散させた場合には、出資者に財産を返還する」
- 「医療法人の出資は出資した割合に応じて、財産の返還を受けることができる」
といったような部分を削除します。
その後、新しい定款(文言削除後の定款)を都道府県に申請し、都道府県から認可を受ければ【持分のない医療法人】へ移行できます。
持分なしへの移行後に発生する問題点
【持分のない医療法人】への移行手続きは定款変更がメインとお話させていただきました。
「これで【持分のある医療法人】の問題点を回避できる‼‼」と思われますが、そうはいきません…。
通常、法人に課税されない「贈与税」が課される
移行手続きをしますと発生してくるのが、医療法人に課税される贈与税です。
贈与税は通常、個人に課税される税金であり、法人には課税されません。
しかし、移行した場合には医療法人に贈与税が課されることとなります。
例).【持分のある医療法人】を、A先生とB先生で500万ずつ出資して設立
A先生 持分 500万
B先生 持分 500万
医療法人は1,000万の持分=財産があります。
数年後、A先生は「海外で生活したい‼‼‼」とドクターを引退。
「医療法人に出資した500万は返さなくていいよ‼‼」と言い残し、医療法人を辞め、海外へ移住してしまいました。(←持分の放棄といいます。)
この場合、B先生がもっている持分の価値は、1,000万となります。
持分が放棄されたことによって持分の価値は、1,000万に上昇し、上昇分の500万円分が贈与税の対象となるのです。
贈与税の対象と聞いて、出資者が全員持分を放棄し【持分のない医療法人】に移行しようとする場合、課税対象がいなくなってしまいます。
そこで、税金を回避されないために、本来は個人にしか課税されない贈与税を医療法人に対して課税しているわけです。
贈与税の対象となるとなかなか移行手続きが進まなくなるという現状も起きています。
贈与税の免税特例
医療法人への贈与税については、一定の要件を満たせば非課税となりますが、条件が厳しいものでした。
平成29年9月30日までは非課税になるための主な条件は下記の通りでした。
非課税になるための主な条件(~平成29年9月30日)
- 医療法人の理事を6人以上、監事2人以上にすること
- 医療法人の役員は親族を1/3以上入れないこと
- 法人関係者に利益供与しないこと 等
上記の要件で、一番ネックになるのが、2の親族を1/3以上役員にできないことです。
実際の医療法人は、役員のほとんど(もしくは全て)を親族が占めているケースが多くあります。
その理由としては、「親族であれば経営方針で揉めることが起きにくいから」という点が主です。
一方で、親族経営を続けていると、医療法人の財産を理事長が私的に使ってしまう可能性もあります。
現在親族経営している医療法人が、今後は他人を(それも2/3も)役員として迎え入れなければならず、その新しい理事たちが結託してしまえば創業者の理事長が追い出されてしまうというリスクが出てきます。
そんなリスクを負ってまで贈与税を非課税にしたいと考える人は少ない、というのが現状でした。
そこで厚生労働省は平成29年10月より条件を大幅に緩和しました。
非課税になるための条件(平成29年10月~)
厚生労働省 「持分なし医療法人」への移行促進策(延長・拡充)のご案内(PDF)
ざっくりお伝えしますと、移行計画に認定制度・運営要件を満たせば、持分放棄に伴う法人贈与税は非課税となる措置です。
※運営要件は移行後6年間満たさなければなりません。
この変更による一番の変更点は、以前の要件でネックになっていた「医療法人の役員は親族を1/3以上入れられない」という条件が無くなった点です。
親族で経営していても、他の条件を満たせば贈与税が非課税となるのです。
おわりに
ここまで医療法人についてご説明差し上げてきました。医療法人についてのご理解は深まりましたでしょうか。
次回からは、クリニックの個人経営から医療法人へ法人化するメリット・デメリットにつきましてご説明させていただきたいと思います。
税理士法人YFPクレアには法人個人問わず、医業に特化した担当者が多く在籍しておりますので、気になることがありましたらお問い合わせいただけましたら幸いです。
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