この記事は2023年6月に書かれたものです。
みなさまこんにちは。税理士法人YFPクレアの村上です。
このコラムでは医療法人についてご説明していきたいと思います。
皆様の今後の経営について、少しでもお役に立てれば幸いです。
これまでのコラムで医療法人についてご説明差し上げてきましたが、今回は個人クリニックを法人化することのメリット・デメリットについてお話させていただきたいと思います。
個人クリニックを医療法人化した際のメリット
税務面でのメリット
節税効果がある ※税率が低い
個人の場合、所得税の税率は、所得に応じて5%~45%。住民税などとも合わせると、約55%ほどの税率となります。
一方法人の場合、出資金1億円以下の法人の場合では下記の税率となります。
◆所得800万以下の部分 15%
◆所得800万超の部分 23.2%
上記に法人事業税などを加味しました実効税率(実質的な税金負担率)は30%程度となります。
所得が一定のレベルを超えた場合、法人化したほうがメリットがある形となります。
※国税庁HP「所得税の税率」「法人税の税率」
給与所得控除が使える
法人化することを簡単にお伝えすると、勤務医になるようなイメージです。
役員報酬が支払われて給与として所得を得ていくこととなる、サラリーマンのような形です。
所得が給与となりますと、給与所得控除が使えますので、その分節税になります。
給与所得控除とは
給与所得がある人が給与収入から差し引ける経費相当額を考慮したもの
個人事業主の場合は事業所得を計算する際に売上から必要経費を引くことができますが、給与の場合は必要経費の計算ができません。
そこで、給与をもらって働いている人も必要経費相当額として給与所得控除を引くことができます。
控除できる金額につきましては、給与収入に応じて額が変わってきますので、下記国税庁HPをご参照ください。
※国税庁HP:給与所得控除
退職金の支払が可能となる
個人での開業医は退職金がありません。
しかし、医療法人となると、法人で蓄えたお金を最終的に退職金という形で受け取ることができます。
さらに、「退職金から控除分を引いて残った額の1/2」に対して課税となるので、低い税率で退職金を受け取ることが可能となります。
※国税庁HP:退職金と税
事業面でのメリット
分院・介護事業所など複数の事業所を経営できる
分院や複数の事業所を経営することができると、売上自体を増加させることができますし、規模が大きくなることによって、医薬品や検査費用等の交渉がしやくすなる可能性があります。
また、人材につきましても、配置換え等が可能になります。
優秀な人材のライフスタイルの変化に対応する働き方に柔軟に対応できるようになり、職場の人間関係や地理的理由で失う機会が少なくなるため、安定した経営を維持することができるようになります。
さまざまな事業展開ができる
医療法人には本来業務と呼ばれる、病院・診療所・介護老人保健施設・介護医療院等の開設・運営だけでなく、他の業務への事業展開が認められています。
例えば、有料老人ホームの開設・分院の設立・リハビリのためのフィットネス等、医業に関連した業務について運営等です。
現在、医療サービスと介護・福祉の連携が求められており、事業拡大を図る傾向が強くなっているため、病院の業務に付随した業務として病院内売店の経営や敷地内駐車場の経営も認められています。
個人クリニックを医療法人化した際のデメリット
法人化する際の手続きが煩雑
個人経営のクリニックの場合は、保健所へ「診療所開設届」を提出し、その後、各地方の厚生局に「保険医療機関指定申請書」を提出すれば開業はできます。
※その後、事業開始に当たって税務署や都道府県・市町村への書類提出もありますが、こちらは法人化した場合も同じですので、割愛させていただきます。
しかし、医療法人の場合、設立するための手続が煩雑です。
個人の時のように必要書類を提出するだけでなく、説明会への参加・法人定款の作成、設立総会の開催、自治体による面談、実地調査などが発生しますし、法務局での登記手続きや保健所への提出書類があります。
※設立手続きの詳細については、今後のコラムにてご説明させていただきます。
医療行為を行いながら法人化の手続きを進めていく、というのは様々なリスクが伴いますので、多くの医療法人は専門家である行政書士・弁護士・税理士等の士業へ委託する業務が増加し、委託料の負担も増加します。
解散する際の手続きが煩雑
設立同様、解散も都道府県の認可がなければできません。また、認可が下りるまでに半年以上の時間がかかります。
個人的な理由での解散はすることは難しいですし、解散時に財産がある場合は国や地方公共団体に帰属してしまいますので、注意が必要となります。
設立後の事務作業が煩雑化する
医療法人の設立後は、一般的な会計帳簿や労務資料はもちろんのこと、以下の定期的な業務、および運営上の義務が発生します。
- 決算報告の届出 <年1回>
- 資産総額の登記<年1回>
- 役員重任登記の登記<2年に1回>
- 社員総会の開催<年2回>
- 理事会の開催<年2回>
- 監査の実施<年1回>
これらの点におきましても、前回のコラムでお話させていただきましたように、専門家である行政書士・弁護士・税理士等の士業へ委託する業務が増加し、委託料の負担も増加します。
社会保険への加入が必須
個人経営のクリニックの場合は、スタッフが常勤5名以下であれば社会保険の加入は任意加入となっています。
しかし、法人の場合は雇用人数に関わらず、常勤職員は強制加入となっています。
法人と従業員の労使折半となり、双方の金銭的負担が発生します。
おわりに
今回は、医療法人化に当たってのメリットとデメリットをまとめてお話させていただきました。
次回は医療法人化するタイミングについてお話させていただければと思います。
税理士法人YFPクレアには法人個人問わず、医業に特化した担当者が多く在籍しておりますので、気になることがありましたらお問い合わせいただけましたら幸いです。
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